
肝臓は腹部の臓器の中で最も頭側に位置し、肋骨と横隔膜に囲まれて存在しています。開腹手術で行う際には、しっかりと臓器を視認しながら手術を行うために非常に大きな手術創が必要になります。
また、肝臓は血流が非常に豊富であるため、大出血を来たしやすい臓器です。そのため、肝臓の手術はリスクの大きい大手術とされており、安全に手術を行うためには緻密な手術計画と高度な技術が求められます。
肝切除の術前には、患者さんそれぞれの画像データを用いて3D画像を作成し、腫瘍の位置や脈管解剖を詳細に把握し、切除部位・範囲や処理する脈管、切除肝容積などを詳細にシミュレーションしてから手術に臨みます。


腹腔鏡下肝切除術(肝S8亜区域切除術)後の実際の傷

3D画像を用いた術前シミュレーション

近年は、腹腔鏡下手術が発展し、肝切除の多くが腹腔鏡下手術で行われるようになっています。腹腔鏡下手術では、創部の痛みは大幅に軽減されます。また、腹腔鏡下手術では開腹手術とは異なる視点を利用可能で、開腹手術では見ることができないような、例えば背側から覗き込むような視野を得ることができます。腹腔鏡下手術では、近接した映像を見ながら手術を行うことになり、開腹手術での視野と比べて拡大された視野で観察することができるため、微細な解剖を認識しながら精密な手術が可能となります。
さらに、腹腔鏡下手術では、お腹の中に二酸化炭素を送りこんでお腹を膨らませながら手術を行います。これにより、常にお腹の中に10mmHg程度の圧(気腹圧と言います)がかかった状態になるため、出血部を圧迫止血しているのと同様の効果があり、肝臓からの出血を減らすことができます。一般的に、腹腔鏡下手術では、術後の癒着が少なく済み、体壁破壊は最小限に抑えられます。肝切除の対象となる肝細胞癌や転移性肝腫瘍は、繰り返し肝切除を行う必要があることが多く、腹腔鏡下手術は2度目、3度目の肝切除の際に有利に働きます。適切に腹腔鏡下手術が行われれば、肝臓は腹腔鏡下手術のメリットが非常に大きい手術と考えています。もちろん、腹腔鏡下手術のデメリットも0ではありません。腹腔鏡下手術では直接手を用いて手術を行うことができないため、手の繊細な感覚は失われます。また、手術器具には手のような関節はなく、ポート(お腹に設置した筒)を通して挿入して操作するので、どうしても動作制限があります。このような技術的問題・動作制限のために、ともすれば、手術操作により大出血を来たすリスクや開腹手術に比べて手術時間が著明に延長するリスクがあります。開腹手術でさえ難しいとされる肝切除を腹腔鏡下に行うには、開腹肝切除術の十分な経験とともに、腹腔鏡下手術の高度な技術が必要となります。
当科では、肝臓手術の豊富な経験を有し、肝臓領域で国内外の指導的立場にある内視鏡外科技術認定医が在籍し、安全かつ制度の高い手術、ハイレベルな腹腔鏡下手術を提供することができます。実際、輸血が必要となるほどの出血を来たすことはほとんどありません。手術後の回復は非常に早く入院期間も平均で1週間程度と、患者さんの負担は非常に小さくなります。当科では、安全性と根治性を担保した上で、低侵襲手術の適応を判断して行っています。患者さんの病態に応じて最適な治療を行うための一つの選択肢として腹腔鏡下手術は非常に有用です。安全性と根治性を落とすことなく、患者さんにできるだけ負担のかからない低侵襲な手術を提供していきたいと思います。


損傷すると大きな出血につながる太い肝静脈を丁寧に露出しながら、慎重に肝離断を進めています。また、1mmにも満たないような細い血管まで正確に認識し、一つ一つ確実に処理することで、安全性の高い肝切除を実現しています。

肝臓の背側に位置する下大静脈(腹部や下半身の血液を集めて心臓へ戻す重要な血管)の周囲も、このように良好な視野のもとで安全に操作することが可能です。写真では、下大静脈へ流入する多数の細い血管を一つ一つクリップで確実に処理し、切離している様子が確認できます。

