尿路結石症治療に新たな可能性 -ツリウムファイバーレーザーの手術成績が示す効率性と安全性-

尿路結石症治療に新たな可能性 -ツリウムファイバーレーザーの手術成績が示す効率性と安全性-

当院小児泌尿器科の久保太郎医師の研究が、国際医学誌「BMC Urology」に掲載されました。

【発表のポイント】

  • 尿路結石症1)に対する内視鏡手術において、ツリウムファイバーレーザー2)は、世界では2020年から、日本では202310月から使用開始されました。
  • 本研究は、日本初(エダップテクノメド株式会社調べ)のツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術3)の成績を報告しています。
  • 従来のホルミウムヤグレーザー4)との比較において、手術成績は同等であり、合併症にも差は認められませんでした。
  • ツリウムファイバーレーザーは結石を砂状に細かく砕く特徴があり、結石砕石片の回収時間を短縮できることが明らかになりました。
  • 今後、大きな尿路結石や尿路が狭く結石砕石片の回収が困難な症例において、これまでの結石治療に新たな選択肢をもたらし、さらなる臨床効果が期待される有効なレーザーであると考えられます。

【概要】

筑波記念病院 小児泌尿器科 久保 太郎、四谷メディカルキューブ泌尿器科 阿南 剛、八戸平和病院 泌尿器科 工藤 大輔・松岡 俊光・奥山 佐治らの研究グループは、尿路結石症に対する内視鏡手術において、ツリウムファイバーレーザーとホルミウムヤグレーザーの治療成績を比較しました。その結果、手術成績や合併症に有意な差は認められませんでしたが、ツリウムファイバーレーザーは手術時間が短く、結石破砕効率が高いため、結石砕石片の回収時間が短縮されることが明らかとなりました。ツリウムファイバーレーザーは結石を砂状に細かく砕くことから、大きな尿路結石や尿路が狭く結石砕石片の回収が困難な症例においても有効であると考えられます。

本研究は、日本初のツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術の報告です。本研究成果は202542日付け(日本時間)で国際専門誌BMC Urology誌に掲載されました。(doi10.1186/s12894-025-01738-2

【本研究成果の意義】

本研究により、日本におけるツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術の安全性と有効性が示されました。将来的には尿路結石症に対する内視鏡手術の新たな選択肢となることが期待されます。さらに、尿路結石症の治療が一層向上することで、SDGsの目標である「すべての人に健康と福祉を」の実現にも貢献します。

【研究背景】

尿路結石症は生活習慣病の一つであり、日本における罹患数は年間約11万人、生涯罹患率は男性で15%、女性で7%とされています。再発率が高く、5年で約50%の患者が再発すると報告されており、激しい痛みを伴うことから、患者のQuality of lifeQOL)を著しく低下させる疾患です。

自然排石が困難な尿路結石に対する有効な治療法として、経尿道的腎尿管砕石術が広く行われています。これまで、この手術に使用されるレーザーとしてはホルミウムヤグレーザーが主流でしたが、新たにツリウムファイバーレーザーが医療用として開発され、欧州では2020年、米国では2021年より尿路結石症の内視鏡手術に導入されました。

ツリウムファイバーレーザーの大きな特徴の一つは、従来のホルミウムヤグレーザーに比べ、結石をより細かく砕き、結石を溶かすように小さくできる点です。これにより、結石砕石片の回収が不要となり、結石の場所や大きさによっては手術時間の短縮が報告されています。近年、海外の報告では、ツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術が有効かつ安全であることが示されています。

日本では202310月からツリウムファイバーレーザーの使用が始まりましたが、日本における治療成績の報告は現在までありませんでした。

【研究内容】

本研究では、ツリウムファイバーレーザー(Fiber Dust®1)による経尿道的腎尿管砕石術の初期成績を報告しました。ツリウムファイバーレーザーを使用した48例と、従来法であるモーゼステクノロジー5)搭載のホルミウムヤグレーザーを使用した48例を後ろ向きに比較しました。

2群の尿路結石の大きさ(中央値)は13mmであり、年齢、性別、結石部位、結石体積、および周術期合併症において有意な差は認められませんでした。手術成績についても術後に残石がない割合はツリウムファイバーレーザー群が98%、従来法群が96%であり、統計学的な差は見られませんでした。

一方、手術時間は(中央値)はツリウムファイバーレーザー群が45分、従来法群が54分であり、結石破砕効率(中央値)はツリウムファイバーレーザー群が8.2mm3/min分、従来法群が5.5mm3/min分でした。結石砕石片の回収時間(中央値)はツリウムファイバーレーザー群が7分、従来法群が21分となり、ツリウムファイバーレーザー群では従来法群と比較して手術時間が短縮されました。その主な要因として、結石破砕効率の向上と砕石片の回収時間の減少が挙げられます。特に、回収時間の短縮は、砕石片がより細かく破砕され、回収作業の負担が軽減されたためと考えられます。2)

本研究は、日本においてツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術に関する初めての報告であり、手術成績も良好で合併症が少ないことを明らかにしました。

【今後の展望】

本研究を通じて、尿路結石症に対するツリウムファイバーレーザーを用いた経尿道的腎尿管砕石術は、有効で合併症の少ない手術の一つであると考えられます。ツリウムファイバーレーザーは、ホルミウムヤグレーザーよりも結石を砂状に細かく破砕できることが報告されています。この特性を最大限に活用することで、大きな尿路結石や尿管が狭く結石砕石片の回収が困難な症例にも有効な治療法となる可能性があります。

今後は、ツリウムファイバーレーザーの有効で安全なレーザー設定の確立や、効果を高める内視鏡操作の探索に取り組みます。ツリウムファイバーレーザーが尿路結石症に対する内視鏡手術の新たな選択肢として普及・拡大することが期待されます。

【用語説明】

1. 尿路結石症;尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)に結石が生じる疾患で、多くは腎臓結石または尿管結石に分類されます。腎臓で形成された結石が尿管へ移動すると、疝痛発作(腰背部の激痛)を引き起こします。

2. ツリウムファイバーレーザー;光ファイバーを増幅媒体とするダイオードレーザーの一種です。ホルミウムヤグレーザーと比べて水への吸収率が約4倍高く、結石の蒸散効果も約4倍高いと報告されています。さらに、機器が軽量かつコンパクトであることも特徴の一つです。

3. 経尿道的腎尿管砕石術;尿路結石症に対する手術法の一つで、尿道から内視鏡を挿入して結石を破砕・除去する手術です。低侵襲内視鏡手術として、日本を含む世界中で施行件数が増加しています。

4. ホルミウムヤグレーザー;尿路結石症治療における標準的な砕石方法として、約30年前から使用されています。フラッシュランプや水冷の冷却装置を備えているため、機器のサイズが大きいという特性があります。

5. モーゼステクノロジー;通常のレーザーは、水中で一部のエネルギーが吸収されるため、結石に到達する力が弱まります。モーゼステクノロジーでは、レーザーを2段階で発射することで、最初のレーザーが水中で道を作り、続くレーザーで効率よく結石を破砕します。

【論文名】

Initial experience of thulium fiber laser in retrograde intrarenal surgery for ureteral and renal stones in Japan: Surgical outcomes and safety assessment compared with holmium:yttrium-aluminum-garnet with MOSES technology

日本でのツリウムファイバーレーザーによる経尿道的腎尿管砕石術の初期経験:ホルミウムヤグレーザー(モーゼステクノロジー)との比較検討

掲載誌:BMC Urology

【著者名】

Daisuke Kudo, Go Anan*, Yoshiharu Okuyama, Taro Kubo, Toshimitsu Matsuoka

*責任著者

【本件に関するお問い合わせ先】

筑波記念病院

総務課 広報担当 藤田

TEL:029-864-1212  E-mailsoumu@tsukuba-kinen.or.jp


1:ツリウムファイバーレーザー(Fiber Dust®

2:結石破砕のイメージ図